輪湖真緒(Vo/Gt) セキグチコウスケ(Vo/Gt) モチダカズマサ(Ba) タケウチ(Dr) |
4人組バンドThe Waterfalls
ライヴで前に立つギター2人とベース1人。
この内ギター1人とベースが左利きで、ステージを観ていると鏡に写った姿のように見える。レフティーの方が多いフロント。不思議な感じだ。
オルタナティヴシューゲイザードリームポップ…多分そう言えば間違いないんだけど、
これだとぶっきらぼうに押し付けているようである。考えよう。
セキグチコウスケ(Gt./Vo.)は前髪が長くてどんな顔でどこ向いて歌ってるかよく分からないのだが(笑)マイクを水平気味に立てているからか、マイクを睨みつけ噛み付くように歌っていて、その姿にはアイロニックな雰囲気がある。精神はグランジか。
しかし鳴らしている音楽には、ミクロで見たときに、どこか人懐こいポップさが確実に介在している。・・・どういうことか。
オルタナシューゲドリームポップ辺りのジャンルには、勝手に「無責任で放ったらかし」というイメージがある(笑)。昨年2月にジザメリの『Psychocandy』再現ライヴに行った。演奏が技術的に下手なのはご愛嬌だが、正直途中は退屈した。自分の周りのおっさんは全身を耳にして聴いて大感動していた。観れたことは光栄だし「Just Like Honey」のイントロのドラムには高揚させられた。しかしライヴの姿勢として「無責任で放ったらかし」という感覚を与えられたのだ。
The Waterfallsのライヴを観たとき、"投げっぱなしにしないキレた(鋭い)姿勢がある"と思った。彼らはクールだけど楽しそうにしていて、バンドとして羨ましい光景だった。
我々の意思(感想)が介入できる余地・余白を残した詰め込みすぎないスタンスがある。
例えば曲の終わり方など、"ただ演奏して広げっぱなし"ではないのだ。
もう少し具体的な特徴であれば、チョーキングがロックの作法なのであれば、アーミング(fall)がウォーターフォールズの流儀。
もちろん男女ツインヴォーカルもアイコニックで聴きどころだ。
人生のBGMとして生活に合う位には壮大すぎず、iPodに入れておきたい、
最高にクールな4曲を是非聴いてほしい。
The Waterfalls『The Waterfalls』(2016)
1. Ride
2. Somewhere
3. Fall
4. Open
¥500-
ライヴ会場物販スペースで販売
2017年夏から以下サイトにて好評発売中!
The Domestic by THISTIME Records
HOLIDAY! RECORDS
全曲紹介
「Ride」
個人的には趣味どハマり!であるが「一番好きな曲か」と尋ねられれば考えてしまう。このあともいい曲は続く。
どこが「趣味どハマり」か?ベースラインが象徴するようにRide的だしもっと遡ればThe Beatles的。ミクソリディアンのメロがたまらない。
イントロなどで聴けるように2本のギターでこんな響きを作れてるのはとてもかっこいい。(録音技術的なところでは2つのギターアンプ前にそれぞれ2本マイクを置いて、録れた4本それぞれの定位を工夫している。)
コーラス部では「フゥ」というスキャットのハモリが入るが、主旋律のメロディーと最初の1音目が同じ音形のため一瞬字ハモのように錯覚してしまう。"す(ぐに)"のとこはsの摩擦音がシンバルとも調和を起こしているような、ハモリにもシンバルにも寄り添っている気持ちいいヴォーカルだ。
テンポ的にはドッシリとしている方だと思うが、グルーヴにはスピード感がある。(いつもより少しゆったりと演奏したようだが、メンバーもレコーディング中「聴いてみるとちょっと早い?」と言っていた。)モチダカズマサさんのドライヴ感ある直線的ベースと、少し忙しないがハシってもないタケウチの8ビートが産むものだろうか。
ちなみにタケウチのセットに「ライド」シンバルはなく、18"のクラッシュを(ワンタムセッティング時の)ライドの位置に置いてある。一般的なワンタム時に18"が置かれる場所(ドラマーの右手側,目の前)にはチャイナが置いてある。
アウトロ前には3声コーラスが聴くことができるが、左にパンされてる音ということでモチダさんの声と思う人もいるかもしれない。残念。レコーディングのみ付け加えられるコウスケの声だ。この日たまたま一人で思いついたらしい。メンバーがご飯を買いに行ってる間に嬉々としてレコーディングしていた(笑)。
最後のフィードバックは偶発的なものだが、A(♭ⅲ, m3°)のような♯A(♮ⅲ, M3°)のような3度の音がなんともロックンロールして、この曲のオイシイところを総括してくれているようだ!
最後のフィードバック音を左から右へ動かすのは僕の趣味。。。
ヴァース部のメロディーをミクソリディアンと称したが、長3度だけでなく短3度にも寄り道してドリアン的である。これもとても気持ちいいポイントだ。
少し遠目にあるヴォーカルがこの曲の世界観だと思っている。
「Somewhere」こんなん好きに決まってるやろ!って感じの甘めの女子ボーカルが効いてるシューゲイズ、インディーポップ!— HOLIDAY! RECORDS (@holiday_distro) 2017年8月6日
The Waterfalls / The Waterfalls
¥ 500(税込) https://t.co/cPho3tPDGl pic.twitter.com/9ux8eFFOPx
唯一の輪湖真緒作曲。
何よりヴォーカルのメロディーが本当に素晴らしい。
途中からコウスケの「コーラス」が入ってくるが、どちらも良い意味で主旋律ぽくない(歌う箇所の少なさからコウスケの声はバッキングとして扱いミックスしたが)。
そしてヴァースの輪湖の歌メロも器楽的ではないか。日本人が抱くコンプレックスを無意識にも乗り越えている日本人らしくないメロディーだろう。内にあるエキゾチズムを見事に発揮させている。
ちなみにコウスケのコーラスは輪湖に続く形で1小節遅れて入ってくるが、歌っている音が同じであるためここだけ輪唱になっている(踏襲しているのは音だけであり歌詞が違うため厳密には「輪唱」とは違う)。
"ここではないどこか"というのはどこだろうか。無難なところでヨーロッパのような感じはするが、さて、中国(中華人民共和国)って解釈はどうだろうか。輪湖にとっては不本意かな?
子音の残り方や、発音をそのまま伸ばしているところに中国語みたいな特徴を感じた。ヴァースで「イーサーシー」や「フーサーセー」みたいに聞こえるところはないか?サラっとキラつくヴォイシングも例えばちょっと前の台湾のバンドみたいだ。俺はそう思った。
しかしメロディーの頭の音が長7度(シ)から始まってる。メジャーペンタトニックを頭から覆している。彼女は相対性理論が大好きであるはずだから、中国という意図は絶対にないはずだ。
本人にとってただの癖なのかもしれないが、ヴァース終わりやサビの終わり、"here"のあやふやなピッチは重要なチャームポイントだ。音源だとダブルトラッキングで歌われているためか誰が聴いてもファ→ミに聴こえるだろう。カデンツとしてレ→ドで解決させるのが普通のように思えるが、なんとも含みのあるファ→ミ。レコーディング前に貰ったライヴ音源(観にも行った)では、不安定なピッチのミ一音を優しく3拍目に置いていた。
シもとっても特徴的だ。この曲のメロディーの最高音はシ(間奏ギターソロ部のハミングは除く)。ヴァースはその最高音シからの下降フレーズ。1音目であることも、1.5拍という音価からも特徴と言えるだろう。上昇フレーズのサビでも上り詰めた先にはシがある。2拍という音価をアタマで鳴らされる。(と、この曲はハ長調なのでドレミで話をしてみた)
ギターソロは一発録りらしいスリリングな緊張感がある。別録りじゃないよ!
このsong(by you) (for me)でgo somewhere!異国情緒を探し求めるような気分へ!
「Fall」
ヒラ歌終わりサビ前(1:41〜)に出てくる「メロディーに匹敵するギター」。こういう構成はこのバンドに多いが欧米インディー的な雰囲気を出せる使い方(ギターの歌い回し)は羨ましいところ。
音符の細かいメロディーは楽器に任せるポリシーか。前曲「Somewhere」と同様に音価が長くテヌートな印象の歌メロが、ヴォーカルを器楽的な印象にしているのかもしれない。その代わり楽器であるギターが演奏する先のフレーズのスピード感がより爽やかに響くだろう。
とにかくサビが至高!コウスケのメロディーは"あーおーぞー「らー」"と最後に長7度の音を音価長く伸ばす。それまでの三音も同じく器楽的な音選びだ。
そこへ、ヒラ歌ではユニゾンであったがここでは追いかける輪湖のヴォーカル。この二つのメロディーは多分相互補完関係にある。
ラスサビ前、1音だけリードギターが違う音を弾いている(3:48)。1音目でⅰとすべき音をⅶで弾いている
曲が曲なので気付きにくいと思います。一発録りならではの演奏のゆれですね。
「Open」
ミニマムな構成でマキシマムなスケール。7分超えの大作で締める「今日の"Champagne Supernova"」。シンガロングなアンセム感こそないが、繰り返されるding-dongなギターが、本来の意味でのアンセム(聖歌)感をもたらしているように思える。
構成はミニマムで殆どが繰り返しであり、尺も長い楽曲だが、ヴォーカルがある三つのセクション…曲中同じものは二度として出てこない。決して執拗に詰め込まれ雪崩れる歌メロによる感動の押し売りではないのだ。歌詞カードを見れば一目瞭然だろう。文学的なところでも潔さがある。
本作品唯一のオーヴァーダブ演奏;シタール奏者のようにグワングワンと弾いていたセキグチコウスケのリヴァースエフェクトをかけたギター(1:45〜)は、リズム(縦)も音程(横)も文字通り縦横無尽に揺さぶる。頭にサウンドスケープをしっかりと持っていること自体素晴らしいが、コウスケはそれを再現するノウハウも兼ね備えていることが素晴らしい。
逆に言えばイントロ前で聴ける高音の逆再生ギターはリアルタイムで弾いたものだ。タイミングなど一切加工はしてない。輪湖による抜群のセンスだ。リヴァースエフェクトを掛けると、自身が演奏したい音と出音に、時間的・旋律的にギャップが出来てしまうはずなのだが、偶然だとしても結果的にしっかり効果的にコントロール出来ていると思う。
「Open」という名に相応しい1弦開放と2弦開放の響き(オープンコード的であり、4度関係が前述のdingdong)。窓が開け、雲が開け、「太陽」の光がさんさんと降り注ぐ風景を思い出させてくれる……な〜んて「音楽を聴いて別次元のことへ勝手に結びつける気持ち悪い比喩」をなぜ書いてしまっているか。「さわやか3組」のテーマ曲"(サンサンサン) 太陽の光"と同じメロディーが歌われているからだ!(4:11 "光の中の")
本格的なバンドイン(1:44あたり)まではモノラルライクにLo-Fiなミックス。どんどんと開いていき(Open)、全体のサウンドが滝のように降ってくる。
ちなみにキック単体へはEQとコンプを使っておりません!笑
レコーディングについてと、おわりに。
スタジオノア駒沢店で録りました。オケは全員一緒の部屋で15トラック一発録り。全パート一日で録りました!!!
アンプもドラムも同じ部屋。顔を見て演奏したいとのことだったけど、アイコンタクトはしてたのかな?でも座らず立って演奏していたり、自分たちで自分たちをやりやすい環境へ持っていっていました。
オーヴァーダビングは前述通り「Open」の後ろで鳴っている轟音アーミングギターのみ。以外ミックスでの差し替え箇所は5ヶ所に満たないです。
ヴォーカルは後録りだが、ライヴにないRECのみでの付加的アレンジという意味では「Ride」の3声目のコーラスのみ…と、ライヴでの演奏に限りなく近い音源であるので、これを聴いて是非ライヴにも足を運んで欲しい。
今回サウンドスケープはインディーなローファイ系寄りを目指すということで、メンバーがKid Waveの『Wonderlust』というアルバムをプレゼントしてくれた。
(初めてiTunesでプレゼントの機能を使うことになったのだけどなかなか嬉しいものだ!届いたメールのデザインとかAppleの心配りもグッドでした!)
「レコーディングデータのバックアップを入念にとる姿勢」に曲やバンドへの愛が感じられました。(笑)
レコーディング前には2回しかライヴをしていないThe Waterfalls。しかし外での活動がまだ浅い段階でこういった音源を作れてるというのはこれからかなり大きいと思う。頑張って欲しい!
これから名刺がわりになるだろう1枚。
セルフタイトルの名に相応しい4人の勢いを封じ込められた作品なのではないかと思っています。