Looisbos『vase』全曲レヴュー & レコーディングレポート

前作の『chairs』が大好評を博したルイボス
物販やディストロでは売り切れが続出。東名阪のタワレコでの取り扱いもありました。
この時代にCDがたくさん売れるのすごい!
そしてなんとAlpaca Sportsにまで届いてしまった!

昨年は下北を中心に精力的にライヴをしてきた彼らですが、
初ライヴは前作を発表してから約8ヶ月後でした。しかもご時世により配信ライヴに…

今作のレコーディングはそんな初ライヴの翌月に行いました。
(当初の予定では4月レコーディングでしたが、コロナが理由で叶わず。もし4月にレコーディングしていたら、初ライヴの前に2作の収録をしていたことになっていた!)

紹介が遅れましたが、前作に引き続き私がレコーディング・ミキシング・マスタリングを担当させていただきました。超光栄。
活動の難しい2020年でしたが、そんな中でもメキメキと名前が大きくなっていくルイボスを、完成に至るまで目にしてきました。
そこにプレッシャーは無く、むしろワクワクしながら作業を進め、ようやくみなさんにお届けすることができます!
今まで前作のEP4曲(と自主制作のカヴァー音源が3曲)しか音源が聴けなかったわけで、、、みなさん待望の2ndとなりました!

全体のサウンドについて、前作は比較的キラッ!バキッ!ドーン!としたサウンドでしたが、
今回はあまりキラッキラにはせず、歌とかも「そこまで前には出てこないけど生々しい」感じになってると思います。
質量もドシンと来すぎず、できるだけなるべーく自然に仕上げた感じです。
とはいえライヴがかなり増えてきたルイボスなので、ライヴではできない 音源ならではの試みも増えています!

Looisbos『vase』

レコーディングエンジニアによる全曲解説!

1. amanda

前作同様、男女ヴォーカルのユニゾン曲で幕開けである!ただ今回は男声側がメインらしい。

ギターがフルコード弾きっぱなしだったり、コードが多彩(=コードの種類が多い)だったりで、弾き語りで成立するようなソングライティングとでも呼びましょうか。

前作では見られなかった雰囲気の曲で「純に良い曲!」という感じがします。
良い意味でインディー感が薄く、ポップな曲です。

歌詞

各コーラス部の終わりに奇妙な表現が登場する。
"Climb the peak....."、"Go down the peak....."。
韻律的には、peakに向けて音高をのぼらせ、peakで最高音に達したのちはメリスマでくだらせる。
「頂を登ろうとすると、結局のところ地に落ち行くだけ」ということだろうか。

人名なのにタイトルは小文字始まりなのはこだわりらしいです。

サウンド

あまり湿っぽくせず、リヴァーブなど敢えて少なめに。特に声とか、曲調の割にはドライかと思いますが、僕の解釈はこれです。
また同じく空間系の話だと、テーマを弾くリードギターへ薄っすら掛かる四分ディレイ;掛けてみたら必然だった。

楽曲の力を信じ、どちらかと言えばサウンドは控えめで(特別なことはしてないという意味)、かつEPの1曲目ということで序章的にも響くのかなと。
こんな良い曲を前文的に扱ってしまう贅沢さ!1曲目となることは録音時から耳にしていたので、ミックスも一番初めに着手しました。

エンディングのギターとドラムはオンマイクを切って、アンビのマイクのみを鳴らしているお得意の手法。
優しく盛り下がったところで「So busy」に橋渡しだ!

最後の最後にギターのスクラッチノイズ(って呼ぶのかな?)を入れることはメンバーからの要望。

2. So busy

イントロは5/4拍子が4回。
ルイボスメンバーはGarageBandでデモやレコーディング用のガイドトラックを作るらしい。GarageBandは曲中で拍子が変わる変拍子に対応していないので、4/4拍子を5回という捉え方がメンバーの共通認識だったのではないかと妄想。

4/4になっても時折り入るキメとコード進行でちょっと複合拍子に錯覚する。忙しない!ソー・ビジー!

50'sや60'sっぽいバッキング・ヴォーカルや (0:18 ミオさん(Ba)・ガタさん(Dr)による<ウーウーウーバッ>)
アウトロでのベースのサイケロックに動くライン(2:51)が、僕のツボです。

2コーラス目(1:17〜)から聴けるテキトーなガタさんの歌い回しも、全然キマってなくて超カッコいい!!
また同じく2コーラス目では楽器のアレンジも変わっていて楽しいです。左からのユイさんギターとか、いいフレーズ(1:33)

ユイさん(Gt)ギター大活躍!初ギターソロである (2:14)
ギターソロ前半でのドラムは音が全然違うが、プレイヤーの力加減にによるものであり、かなり優しめに叩いていた。作曲者がそう叩くのであればそういうイメージなのだろうと意図を尊重しそのままミックス。

間奏明け(2:46)、アタマのクラッシュシンバルの前に、16分ウラを絡めシャジャーンと鳴らすシンバルがよき。

1コーラス目と2コーラス目のブリッジでイントロのキメの再演があるが(1:03〜)、ここでの下降するリードギターが超カッコいい。ハーモニーを考えない暴力的なでたらめフレーズ、大好物です。
なのにフレーズの終わりではみんなと合流してから、キレイな小技を効かせてきちゃってニクいです(1:15)

歌詞

1コーラス目はユイさん、2コーラス目はガタさんが歌う。
各ヴァース間共通の型があり、しっかりと対をなしてます。

1コーラス目のバッキング・ヴォーカルの使い方が面白く、前項で<ウーウーウーバッ>と表記したスキャットだが、<バッ>だけはスキャットでなく歌詞中の"But"のこと。

2コーラス目ではバッキング・ヴォーカルが無いため(「音程もリズムもフリーリーにガタさんに歌わせろ」精神?)、ガタさんが自身で"But"を弱起で歌ってる。(ヴァース2回中、2回目は歌ってないけど…)

"He always says that how about a drink"でなく、"His favorite phrase is / How about a drink"とするセンスがなんともルイボス流。

メンバー間での曲名の略称は「ソビー」らしい??「ボ・ラプ」みたいな???

サウンド

「絶対声を歪ませて!2人とも!」という要望がまずあったので、この曲の大前提のイメージなのだろう。

1コーラス目のヴァースの後ろで何やら音が聴こえるが、バッキングヴォーカルを録った時に漏れたガタさんの声 (0:41)
ラフミックスのトラックダウンの時からいるのだが、メンバーから指摘されなかったのでそのままこっそり採用した(笑)

またそんなことは比にならないくらい、エンジニアとしての御法度を犯している。。。
曲の後半は、トゥッティ → ギターソロ → ギターソリ → アウトロ(イントロのキメの再演)という構成。最後1分間はヴォーカル無しのインストゥルメンタルでアウトロまで走り抜けるわけで、楽器で展開を作っていかないといけない
ギターソロの後、ギターソリに発展するが(2:30)、ここでコードなどを弾くバッキング・ギターがいないため、全体的なサウンドが薄くなってしまう。
それを少しでも打破しようと、こっそりストリングスの演奏を入れちゃいました♪信頼関係のもとやっております!
自宅での立ち会いミックスの際にメンバーのみなさんに白状したところ、OKをいただき、気持ち音量も上げました。隠し味だったはずが、まぁまぁ前に出ちゃいました。
てことで、2:32〜2:44くらいまで後ろの音に耳を澄ませてみてください。
クレジットに俺の名前をストリングス・アレンジャーとして加えとけよ!!!!!?!???!

3. Call your name

不穏なべース始まりの「the bus」と、ドラムきっかけのバンドインで疾走感を出していく「Nowhere」の合いの子か。

プレイントロというべきか、この最初のフレーズは本当に印象的で、プレイントロの締めではベースがかなり自由なクロマチックに動いているように聴こえるが、
曲が展開していくことで、これはギターソロ前のフレーズ(2:12)がほぼそのまま移調されているだけであることに気付ける。

バンドインからいきなり転調。キーが定まりフレーズは明るめのメロディーへと昇華する。
このイントロは前述通り間奏で再現され(転調後のキー)、それだけでなくラストのセクション(3:03)でベースによってなぞられる

ベースの使い方が面白いのはここだけではない。
まずはイントロやヴァース部のコード進行は、ギターはⅠ → Ⅲm → Ⅵm → → であるが、
ベースはⅰ → ⅲ → ⅵ → → とⅵを連続して弾き続けるため、最後のⅣは第 1展開形のような響きとなる。
この響きの相対的な不安定さはギターソロ中に解決され、ベースはルートを弾く。
ちなみに1コーラス目のヴァースの前半ではバッキング・ギターがタチェットなため、
ⅰ → ⅲ → ⅵ → ⅵ → と弾くベースと、
Ⅰ(Omit3)を弾き続けるリードギターが織り成す響きは、
(プレーンに言えば)Ⅰ → Ⅲm → Ⅵm → Ⅵm → の進行に聞こえなくもない。
(イントロにはバッキング・ギターがあるので、このセクションがプレイされる前に提示はされているのだが。。)

デモを聴いたとき、トレモロ奏法のギターソロ(2:16)は分かりやすい大衆的な演出かと思ったけど、実際にレコーディングしてみると、そのアヴァンギャルドさにびっくり。(後述)

今度は女性ヴォーカル側もハーフスポークンが含まれている。というか、これはもうセリフなのでは。
これまでハーフスポークンな歌はガタさんの得意技かと思ったら、レコーディング時ユイさんも一発でベストテイクを叩き出していた…。
会話のように交互に呼びかけ合う演出は、イントロのベースとギターの掛け合いにも通ずるか。

間奏ではタンバリンも登場し、前作収録の「Nowhere」のように(よりも?)控えめに左に。

ラストのヴァース部(2:48〜)でのリードギターは、ブルーノートを加えた小気味良くニクいフレーズ…!

歌詞

ストーリー性がある。登場人物のいる歌詞が得意技ですよね。

サウンド

プレイントロの出だしのベースとギターのフレーズはメンバー側からパンニングするようオーダーがあり、「Stereo」なので極端なステレオにしました。
ということで、ベースを極端に左へ振ってます。その後、ベースは最終的にセンターに落ち着くが、そのタイミングがおかしい。
普通はギター含めバンドインしたセクションの頭(0:17)からセンターにするのがセオリー……。
しかし実際にはセクションの途中(0:14)センターになる。
これには音楽的ではない理由がある。
基本的にドラムとベースは同じブースで同時にレコーディングしたが、このプレイントロ部分の一部だけはベースのみ単独で後録りした。つまり定位の変わり目が、テイクの変わり目になっている!
間奏での再現部(2:00)はドラムと一緒に録ったテイクのため、ベースは真ん中から。プレイントロと演奏はほぼ同じだが、定位に違いがあるのはこういった背景があったのだよ!
テイクとトラック(=定位)に一貫性を持たせました。トラック数が少なかった時代のレコーディングのオマージュである。

0:10頃に聴こえるスティックのようなノイズは、もちろん意図的に残しています。

ハーフスポークンもといセリフ部分のLo-Fiエフェクトは、ユイさん・ガタさんとでエフェクトの種類が違います。同じ加工をしたかったのですが、声の特性的にエフェクトの乗りが変わったので。

2コーラス目のヴァース部のミュートされたリードギターは、「宇宙のイメージ」とオーダーされこんな感じに。位相をイジる系の処理で、左右だけでなく上下?前後?の操作もしています。
音楽的にディヴィジするところで、定位的にも分かれさせています。「ディヴィジ」としたのは言葉通りで、その前の単音フレーズはリードギターはユニゾンで2本で演奏されているから。

またそのギターフレーズに続く"uh, uh,"の二人の声の部分だけは、気持〜ちリヴァーブを深めにしていて、ここがなんとも気持ちいいポイント!(1:41〜1:44)
ギターソロはダイナミクス爆発〜。
ギターソロのワウはプレイヤーのまっちゃんさんじゃなく、ガタさんがリアルタイムに手で操作してます。共同作業ワウ。足での操作では再現できない細かさですね。

ギターソロ前のバッキングギター(2:15)はただのフェードインではなく、逆再生もしている。
もともとはストロークをしているプレイだったが、ギターソロに向けての期待感が欲しいので、ギターソロ終わりのホールノート(2:49)だかを引っ張ってきている。

4. Folding Umbrella

amanda」と同じく「弾き語りで成立する曲」。ただこちらはよりシンプルめ。

ギターソロ前のミドルエイト?ブリッヂ?(1:21〜)は雰囲気が変わり、オモテ拍の強い8分に。
それでも最後は"let me go outside"のメロディーで締めています。

ギターソロはヴァース部でも聴けるトライアドのフレーズから始まる。
途中で挟まる下降メジャーペンタの畳み掛けも牧歌的で良い。

ルート弾きが主だったベースが、締めのヴァース(2:38〜)ではヴァリエーションを見せてくれるのも聴きどころだ。

歌詞

仮タイトルは「Holding umbrella」

サウンド

バンドインしてから(0:09〜)バスドラムの音をかなり汚く加工しています。
かなり歪ませてドーーンと長めに響くような成分を混ぜてます。そこまで露骨ではないと思うのですが、あるのとないのとでは大違いでしたので。

湿っぽくなりすぎないように、リヴァーブのバランスにかなり気を払った。

録音時リードギターにはノイズがのってしまい苦戦した(開放弦フレーズやコードチェンジ時に鳴る感じ)。
結局プレイヤーのまっちゃんさんの腕にガタさんが触れ、別の手でギターを触っておくことでノイズを解消
そんな暑苦しい光景が、僕にはまるで折り畳み傘に所狭しと2人で仲良く入っているかのように写った(写ってない。嘘っす。脚色しました)。
ただ努力あっても、最終テイクにも若干ノイズが混じってしまっている。
画像はその時の写真。結局ナットとペグの間を触ることに落ち着いた。

5. Common Sense

この曲をEPの締め括りに持ってくるか?!

ヴァースの捻くれてる器楽的メロディー好き!例えばこんなメロディー、鼻歌で歌わないでしょ?そゆこと。
コーラス部では救いの明るいメロディーがあり、すごく良いバランスだと思う。

ギターソロ(1:01〜)はなんかのモード?ポリリズムも相まって混沌を演出。
リプリーズ(2:07〜)でも、ものすごいフレーズを持ってきています…。スタジオで爆笑も起こったジョーク・フレーズです。

そのリプリーズ演奏前には何故か<No contest!>の声(完全にアドリブ)。
ゲームに疎い僕ですが、「大乱闘スマッシュブラザーズ」のあれですね。

歌詞

"We have got a lot on your plate"はour plateでないところが面白い。
飯が盛られてるのが他人の皿でも食べちゃうぞ 的な。他人の分の仕事まで引き受けなくちゃいけないな 的な。

曲調に似合わず(?)「とてもダークな曲」とは作詞作曲者ガタさんの弁。

サウンド

”常識”にとらわれずやってやろう!

一番右にドラムを振り切り、
中央右にリードギター
中央左にベース
一番左にリズムギターを置いてある。
ドラムを片側に寄せたかったのが先立ち、それに沿って他の楽器を配置しないといけないわけだが、意図を伴いこの形に。
ずばりこれはライヴをする際のルイボスのステージ上の立ち位置どおりのパンニングである。
リリース版では真ん中にヴォーカルを据えたが、当初のミックスではユイさんのヴォーカルを左に・ガタさんのヴォーカルを右に置いていた(が、却下されたのでセンターに戻した。ささやかな抵抗としてADTの成分を左に置いておいた)。

ヴァース部の合間に右から聴こえる声(0:12など)はガタさん。
"work harder"と言っているらしいが、「誰が歌ってるか分からないくらいに加工して別人にしてくれ」とオーダーあり。ということで、話者の区別をサウンドで行ったわけである。
自身のセリフではなく、他人に言われたセリフということで、歌詞に寄せたサウンドメイキングとなる。

間奏で連呼する"We have got a lot on your plate"は、メンバー全員と、スタジオに来ていたメンバーの友人の丸さん、そして僕も含めて大斉唱。
空気感と一緒に録るためにも、かなりラフなセッティングで録音しました。
録ったものをそのまま生音で使うと、いかにも「友達多いわいわいバンド」感が出てしまったので(リッチで厚い録音が逆に安っぽくなるパターン)加工でぶっ潰してます。ピッチ系の加工もして、少し機械音っぽくしてやりました。おらぁ!

また、その全員分のコーラスとは別に、ガタさんオンリーで声を入れています。
でもそこでは<ウィーアーワチュゴナペーエイー>と歌詞をガン無視して歌っててカオスになってます。。アンタは作詞者だろ!と思いつつ、こんな姿勢もルイボス。

ラフなクラップも入ってます。みんなリズムもバラバラ。
クラップは冗談っぽくチープに使ってます。シニカルなこの曲にピッタリかな、と。

自前のウインドチャイムも使われています。
ウインドチャイム自体を勢いよく傾かせてガシャッと音を鳴らす、タンバリン的な新しい使い方もしている!(この曲の最後で大フィーチャー)
レコーディング時のエピソードとして、スタンドが無かったので丸さんに持ってもらったが、演奏するガタさんがふざけるせいで丸さんの手が震え、なかなかウインドチャイムが鳴り止まず録音が始められなかった。
時間との戦いであるとはいえ、変な緊張はナシの和気藹々としたレコーディングでした。






んで、なにバンド名変更してんすか!!!!!!
検索に引っかかりにくいからRooibosからLooisbosに改名だぁ?!

やるやん